第二回


文 絵・愛参謀
激愛戦隊防衛日記



主な登場人物
愛参謀
ヌメレンジャー三代目総隊長。22歳。大阪在住。正体はあべぎゃ。この日記の作者。強いヌメリ愛に毒され、身体がボロボロになってしまったために現役引退。今回の総会の発起人であったようななかったような感じ。寿司が食えない。ラーメンが好き。阪神タイガースが好き。春麗が好き。本当は忍者服なんて着ちゃいない
この姿はバーチャファイターシリーズの影丸がモチーフ。カゲ使いが高じてエッセイ漫画を描くときは常に自分の容姿を影丸に描いているゆえ。今回は「愛忍者」という存在の所為でややこしくなりそうだったのだが無理矢理押し通した。
モノ愛
ヌメレンジャー現総隊長。19歳。横浜在住。正体はザク様。若くしてヌメレンジャーの全権を握ったスーパーエリート。私が電子世界で出会った最初の強敵。北斗フィギュアと原哲夫漫画の総合知識では世界一。私の友人に非常に似ている。ロンゲ。昔はさとう珠緒が好きだったが今はどうか知らぬ。本当は髭なんか生やしちゃいないし鎧も着ていない。
愛天才
ヌメレンジャー幹部。21歳。埼玉在住。正体はアサム。100年に一度のヌメリ愛を持つというその名の通りの天才であったが、愛黄門の出現によりその才は造作の追求へと消費されている。高橋由伸に似ている。変な色香がある。造作っぽいものならなんでも好きらしい。ペニスを3つに裂きたいらしい。本当は巨人帽なんかかぶっていないらしい。巨人ファンでもないらしい。
愛忍者
ヌメレンジャー幹部。24歳。大阪在住。正体は甲斐の才兵衛古くよりヌメレンジャーと関わってきた陰の存在。究極の阿呆になるため出家したが髪はロンゲ。凄まじき知識を要する優しき漢だが、その背には常に北斗宗家の血が作り出した阿修羅象の幻影が浮かんでいる。歌が巧い。マミヤが好きらしい。本当は口にマスクなんかしていない。でも和服や足袋や草履なんかは本当に履いているらしい。

愛覇羅

ヌメレンジャー幹部。18歳。長野在住。正体はジャギ崇拝者。今回の参加者の中では最年少だが、造作の潜在能力では愛天才に次ぐほどの力を持つ神童。ヌメリミレニアムの全権をを愛天才より譲り受けた。眉毛が太い。便器が好きらしい。本当はヅャギメットなんかかぶっていないらしい。


3月フフフ日

ヌメレンジャー達が集う総会、通称愛総会の開催日が決定した。

誰が最初に開催を口にしたのか。私は知らない。もしかしたら私だったかもしれない。しかしキッカケが誰であろうと今回の総会に関しての全責任は私にあるといっても過言ではない。最終的な総会の場所や日程を決めたのが私だからだ。

正直私は後悔していた

仕切っている者がいなかったから自然と私が決めたのだが、これがよくなかった。何故なら開催場所が我が手の及ばぬ埼玉県川口市であったからである。「一応幹事」の私が、始まってみるまでどうなるか分からぬのという事が辛かった。

理由は、もしかしたら愛総会がフツーの「オフ会」なんてぇものになってしまうのではないかという恐怖感があったからだ。我々はヌメレンジャーである。ヌメレンジャーの特徴は溢れんばかりの激愛。そして一般人を寄せ付けぬ異様なオーラだ。ヌメレンジャーは北斗サイト界でも相当異質な存在と言っていい。そんな歴史ある異質団体・ヌメレンジャーの我々が普通のオフ会なんてものを行っては駄目なのである。

私が総会の模様を全てナビできればそれでいい。自信はないが「異質な総会」に仕立て上げてようと努力はする。だが埼玉県で行われてはどうしようもない。全ては現地に滞在するヌメレンジャー・愛天才に総会の流れを委ねる事となるのだ。

もし「普通のオフ会」になってしまった場合でも愛天才に責は無い。開催しておいて何の力も貸せなかった私に全責任がある。当然その場合、私はヌメレンジャーから身を引かねばなるまい。職を失った私は路頭に迷い、ひっそりと街角でアスファルトに身体を横たえるだろう。いや、ヌメレンジャーならば死んだ土の上で死んでせめて肥料となり世に貢献せねばなるまい。兎に角その時点で私に出来る事は、総会がちゃんと愛総会として成功する事をヌメリ神に祈る事だけであった。

しかし愛天才の実力を疑っていたわけではない。100年に一度の超絶ヌメリ愛を持つ愛天才ならば必ずや造作心溢れた愛総会を演出してくれるだろうと信じていた。だが、北斗の拳愛蔵版13巻を手にとり、例のシーンを見直すたびに「こんなキャラに一体どんな意味を見出せといふのか」と心の奥底に秘めたるヌメリに冷めた心が私の頬に涙を伝わせるのであった。


3月ズゥン日

今私に出来る事は本当に無いのか。真剣に考えた結果、私はひとつの究極アイテムの生成に着手した。
ウェポンの名は「ヌメリマスク」。かぶればギャバン並の速さで肌にフィットし、僅か0.0001秒で愛戦士に成れるというマニア涎垂の一品だ。

ただ単に市販のゴムマスク(銀色面宇宙人仕様)を裏返し、ヌメリっぽく着色しただけなのだが、なかなかの出来に仕上がった。特に修正液でこしらえた歯のあたりが絶妙。こいつぁイケル、と思ったが、本番時のシミュレーションを行うとどうしても不安が残る。この最終兵器を出すタイミングがひどく難しいのだ。

北京都は裏日本、舞鶴市の生まれとはいえ、私もれっきとした関西人の一人である。笑いのメッカ関西に生まれし者はオギャーと泣いた瞬間から、いかに人を笑わせられるかに全ベクトルを向けて生きていかねばならない。私とて例外ではないのだ。そんな関西人の私が、今回の総会のために用意した最終兵器でまさかスベるわけにはいかない。すべてはタイミング。皆の視線が私に注がれたその一瞬を逃さず使用し、確実に笑いをとらねばならぬ。さてどうしたものか。せっかくのアイテムも、大きな悩みを一つ増やしただけであった。


3月ギュウアッ日

総会を2日後に控えたこの日は某サイトのチャットにてヌメリサバトを行った。ヌメリサバトとは愛総会を無事成功させるために行う儀式で、電子世界のとある場所に隊員たちが集い、ラブファイヤーを取り囲んでマイムマイムを踊るという伝統ある儀式である。今回のヌメリサバトを行うにはそのサイトのチャットが一番良いとのお告げがあったので、我々は造作も無く勝手にその場所にてサバトを行う事を決めた。

他人様のチャットにて異質な我々がヌメリサバトなんぞを行えばまず誰も入場することは出来ぬであろう。多少の罪悪感はあったが、罪悪感があるだけマシだとも言える。皆自覚していないだけで、チャットなんてものは常に自分達だけの世界を作っているものだ。そこに入っていける者は「自分をその空気に合わせられる人間」なわけで、少なくとも私には無理な話である。北斗の話題をしていようが何だろうが入れぬ時は入れぬのだ。

サバトも終えて普通の会話をしていると、何を思ったか、1人の御人がヌメレンジャーの真ん中に飛び込んできた。どうやらその御方は我々のことを知っている様子。普通に会話に入りたくて来たのかな、と思ったが違った。どうやらその御方は愛忍者に一言もの申しに来たらしい。昔愛忍者がそのサイトの掲示板にて善意の気持ちで「掲示板のルール」を説いた事があった。だがその御人は、そんな管理人まがいの事をしておきながら今は全くサイトへ来ずにほったらかしとはどういうことだ、と言うのだ。つまり愛忍者に責任を持ってこのサイトの秩序を守るために活動してくれと言うのである。その場にいた全員は呆気にとられてその模様を見ていたが、流石は知性派ヌメレンジャーの愛忍者。「ここでサバトをやると言われたから来たというのなら貴方は他人に人を殺せと言われたら殺すのか」等という理解不能の理論をも冷静に受け流し、結局円満解決してしまった。素晴らしい。私は愛忍者に勝算と尊敬の拍手を送ると共に、自分がこんな所でサバトを行ったが為に迷惑を掛けた事に対しての自責の念、そしてぶつけようのない怒りと哀しさ、情けなさが入り交じってなんだか切なくなってしまったのだった。兎に角私はもうあのサイトへはいかん。

3月ビンッ日

愛総会前日

舞鶴を出、京都の友人宅でセ・リーグの開幕戦を見て泡を吹いていると、我がヌメリシーバーに文(ふみ)が届いた。

ヌメリシーバーとはヌメレンジャー同士が連絡を取り合うために作られたとても便利な通信機器である。お互いがどんなに離れていようがボタン一つでヌメリシーバーを持つもの同士で会話をする事が出来たり、短い文を送る事が出来たりもするのだ。実はヌメレンジャーでは無い一般人が持つ「ケイタイ」なる通信機器とも交信できたりするのだが、それはまあ別にいい。

文を送ってきたのは愛忍者であった。内容は、尾張に着いたが暇で仕方が無い、といったような本当にどうでもいい現状報告であった。愛忍者は文嫌いで知られている。なのにこんな他愛も無い事を文で送ってきたということは、もう心底暇なんだろう。その暇に同情したくなるほどの深い文であった。ただ私も某金満球団のイジメにあって泣きそうだったので、その旨お返しの文で伝え、互いの現状の辛さを報告しあい、辛さ2倍で床についた。

3月変な斧日

愛総会当日

正午に京都駅へ現れた私は、1時10分発の「ノゾミ」なる、やけに尖った乗り物にて一路東京へ出発。ちなみに一時間も早く駅へきたのは、独りで新幹線に乗るのが初めてだったのでもしもの時を考えての事による結果だ。結局は550円もするコーヒーを飲んで時間を潰さねばならぬ羽目になった。

「ノゾミ」は座席が全て指定席なので、速やかに券に記された座席へと移動。座席に座るといよいよもってテンションが上がって来るのを感じる。エンドルフィン出てんのかと思ったが、単に数刻前に飲んだアスパラドリンク2本の効果が出てきていただけであった。あの造作人達と戦うのにシラフではマズイと思い、酒と迷った挙句アスパラを2本購入し、その場で飲み干したのである。

順調に行けば総会開始の2時間前には川口に着く。予期せぬアクシデントに出会ってもこれなら大丈夫。さらに、向こうでハジケ過ぎて困った事にならぬよう、帰りの分の切符も購入済。これで財布の心配も要らない。ついでに向こうで泊まるホテルも既に予約済みだ。アスパラも飲んだし、まさに完璧。無想転生並の隙の無さだ。だがそんな私に愚かにも声をかけてくるものがいた。犯人は初老の女性。愚かなり女。この完璧なる私に何を進言しようと言うのだ。だが私はヌメレンジャー。何を言われてもやさしく応対してやろうではないか。だが老婆の口から出た言葉は見事暗琉天破となりて我が無想転生を打ち破った。
「座席間違えてますよ」
愚かな。完璧なる私がそんな初歩的ミスを犯すわけけがないではないか。我が乗車券に記された番号は2号車11A。そして今私が座っている座席番号は10A。御免なさいおばあさん。

頭を低くして前の座席へと移った私に襲い掛かってきたのは、噂のゲームボーイアドバンスに興じる糞餓鬼2名であった。音量を下げろと糞餓鬼の深層心理に呪を送るも効果なし。任天堂が開発した最新機器が我が精神を破壊する。恐ろしや任天堂。もしやエヌーゴの刺客かとも思いその最新兵器を排除しようかとも思ったが、パープルサンガのチーム存続を優先させるために任天堂殲滅作戦は白紙に戻す事にした。

一時間もせぬうちに名古屋に着いた。名古屋にはヌメレンジャー愛知支部長の愛刺客が住んでいる。参加できるかどうか微妙だと言っていた愛刺客だが、出来れば来て欲しい。風邪だとか言っていたがヌメレンジャーなら激愛守護波にて風邪のウィルスくらい消滅させてほしいところだ、と無茶な事を思ったりした。

コソボ紛争をどうすれば止められるかと考えているうちに眠ってしまい、何時の間にか新横浜も過ぎ、東京に着いていた。ヨロヨロと体を起こした私はヨロヨロと東京駅構内をふらついてヨロヨロと京浜東北線へと辿り着く。本当にヨロヨロしていたのでこの間の記憶が余り無い。トイレに入って出たらもう着いていた気がする。ああ、そういえばその時の小便がやけに黄金色だった。アスパラドリンク放出しただけか。

花粉症マスクでスギ花粉と東京の汚い空気から喉を護りつつ、大宮行きの電車に乗車。車内にいた高校生がユニバーサルスタジオジャパンの話をしていた。そういえばこの日は丁度USJのオープンの日。ハリウッド好きの輩が血眼になって西へ向かっているのに対し、私はどんどん東へ向かっているのだなあと感慨にふける。

アキハバラ、オカチマチ・・・なんか歌で聞いたことのある駅名が並んでいるなあと思いつつ上野を過ぎたあたりで雪が降ってきた。今は淡々と書いたが、このときの衝撃ったらありゃしない。一ヶ月ぶりの雪をまさか東京で見ようなどとは思わぬではないか。まあ我々ヌメレンジャーが集うのである。明日から4月だろうが雪くらい降ろう。もともとこの総会がただのオフ会なんかで終わるはずが無いではないか。私は数日前に私を悩ませていた苦悩が杞憂であったことを確信した。北斗世界では雪は誰かの血を誘っている事になっている。一体誰が流血するのであろう。しかし血が出るとしたら鼻血癖のある私だろうなあと思い、尻のポケットティッシュを確認するのであった。

4時1分、川口駅到着。風雪吹きすさぶ川口駅を出た私は、予約したホテル「川口センターホテル」を目指して歩き出した。防寒具なぞ何一つ持ってきていなかった私に雪と風のコンビネーションは辛い。長袖は着ていたが、腕に触れれば体温が直に伝わる程度のウッスい服だ。私の身体を打ち付ける美しき氷の結晶は、徐々に私の体力を奪っていく。寒い。ひもじい。水。ユリアー。

見慣れぬ地故に少々迷ったが、多少の遠回りだけでホテルに辿り着くことが出来た。これもヌメリ神のお導き。ホテルメンをヌメリ神に見立て低頭の心得。部屋に入ると4時20分。約束の刻は5時30分。あと一時間以上もある。ゆっくり体を休めようとした時、我がヌメリシーバーが鳴り響いた。愛天才が、愛忍者川口着を知らせる文を送ってくれたのである。文によると、昨日忙しかった故に我等が食を取る御店の予約を取る事が出来なかったと書いてあった。そして愛忍者の声が予想していたのとは全然違ったとも。愛忍者は強敵に声を晒す度にその事を言われる。だって違うんだもん、イメージと。

よく見ると愛天才のよりも2時間ほど早く文が届いていた。差出人は多分愛刺客。というのも、差出人が誰だか書いてなかったので差出人が誰だかよく分からなかったのだ。残念ながらそれは不参加の知らせであった。ただ風邪でなく寝坊が理由だと書いてある。こりゃ名古屋で降りて起こしに行けばよかったなと半ばマジで思ったりした。さらば愛刺客。うぬの分まで我々が傾いてみせよう。

ベッドに体を横たえて体を落ち着かせると、嫌でも数時間後に迫った総会のことをいろいろ想像させられてしまう。いよいよあの猛者共と対面するのだ。否が応でもある程度の対策を立てるためのシミュレーションを強要させられてしまう。我がサイト内に鎮座している髭を付けた隊員たちの素顔を思い出し、必死に瞑想する私。

とその時、私は決定的なミスに気がついた。髭を付けた隊員たちの顔・・・髭・・・髭だ。そうだ、髭を忘れていた。ヌメリマスク。あの最終兵器に私は髭を忘れていたのである。ヌメリ様に髭があるという事実は、よほどの北斗フリークでないと気がつかぬ事。だがヌメレンジャーならば知っていて当然の知識だ。あのモジャヒゲなくしてヌメリ様はありえない。髭の無いヌメリ様は烈闘破鋼棍の無い烈闘破鋼棍の男のようなものだ。相手はあの猛者達。絶対にこんな初歩的なミスは見抜かれてしまうだろう。こりゃいかん。もしこの重犯罪が発覚した場合、私はヌメレンジャーから身を引かねばなるまい。職を失った私は路頭に迷い、ひっそりと街角でアスファルトに身体を横たえるだろう。いや、ヌメレンジャーならば死んだ土の上で死んでせめて肥料となり世に貢献せねばなるまい。残り一時間に訪れた私の貞操の危機は、旅紀行で疲れている体に鞭を打ち付け、我を再び雪の舞う寒空の下へと駆りだした。

吹きすさぶ風雪の中で考えた。見知らぬ地で私は今ヌメリマスクに髭を書くためにコンビニを探している。何故私は髭を描くのだろう。何故私は走っているのだろう。何故私は垂れる鼻水を拭こうともせずSOGOの回りをグルグルしているのだろう。くくくっ・・・傍から見れば馬鹿な男に見えるよなぁ・・・けどよぉう・・・こういうのがいいんじゃねぇか・・・なぁ?俺たちみたいな心の荒みきった不精者にゃあよぉう・・・・くっだらねぇ事のために必死になれるこのアツこハートが必要なんじゃねえのか?この俺たちに最後に残された宝物まで失っちまったらよぉう・・・俺達は・・・俺達は一体何に誇りをもって生きりゃいいんだよぅおぅおぅ。などと70年代後半の若者ドラマに出てきそうな理論で自分の存在意義を盛り上げてみたが、セブンイレブンの看板が目に入った瞬間に妄想は中断された。

マジックと共に傘も買ってホテルへ帰還。あと30分しかないよ。これじゃあ総会までに鋭気を養うことは無理だな、と思っていると、再び愛天才から文が。まだ到着しておらぬのか、との内容であった。もう愛天才は既に集合場所に来ているらしい。約束の地は川口駅の改札前。おそらく愛天才は私が改札口から出てくると思っているのだろう。彼は私が既に到着しホテルにいるなどということは知らないのだ。この寒空の中、愛天才一人を佇ませるのは可哀想だ。私はヌメレンジャーの後輩を思いやり直ぐに出発しようとしたが、私の疲労度は飯島さんの状況がどうなろうとしったこっちゃねぇと酷い事を言っていた。必死に説得したが結局我が疲労度を説得するのに時間を食ってしまったため、私が駅前へ到着したのは約束の時の5分前になってしまった。

改札前をウロウロするが誰一人それらしい者を見つけられない。と、私はここで思い出した。集合時の目印というものがあったではないか。その暗黙の合図とは「人差し指を立ててプルプルさせる」というもの。ヌメリ様は劇中で中指を立てているが、都合により人差し指にした。中指を立てていれば本当に危ないからだ。「ファッキューメーンじゃっぷ」とか言われた後、我が鮮血が雪を朱に染めるであろう。我々ヌメレンジャーは争いを好まない。

周囲の目を無視して人差し指を振るわせ続けるも何のアプローチも無し。仕方なく私はヌメリシーバーにて愛天才と通信する事にした。よく見ると愛エレキ電池の残量が少ない。頼むもってくれ。
「こちら愛参謀。こちら愛参謀。オーバー?」
返ってきた声はなんとも普通のボイスだった。このとき初めて私は今日立ち会う相手達が人間である事を理解した。造作人と言っても人間なのだ。私は知らぬうちに皆の姿を物体Xが如き異星人に想していたらしい。

巧みな誘導によって私は遂に愛天才と接触する事に成功。遠くにいても一目見れば直ぐにその男が愛天才であると分かった。彼の背後に莫大な量の愛闘気が渦巻いていたからだ。目印なぞ最初から必要なかったのである。ヌメレンジャーが持つ愛闘気が何よりの目印では無いか。ちなみに愛天才の第一声は「モヒカンとちゃうんかい」であった。わたしとて生活のある22歳である。常日頃モヒカンというわけにもいかぬ。その後公衆電話から到着したとの連絡を受けた後、愛天才と同じような方法ですぐさま愛覇羅もゲット。そして一分もせぬうちに愛忍者とも遭遇。私は一年前に彼と会っていたので大丈夫だったが、愛覇羅と愛天才は大層愛忍者の格好に衝撃を受けていた。突然和服に身を包み足袋と草履を履いた長髪の僧侶が現れたのだ。驚かぬ方が無理だ。その所為もあってか、我々は全員既にモノ愛隊長に背後を取られている事に気がつかなかった。流石は隊長。もし此処が戦場ならば我々は全員首を刎ねられていただろう。総会開始前から我々4人は隊長に格の違いを見せ付けられてしまったのだった。

さてここからは全て監修・愛天才のスペシャルコースだ。持ち前の造作を発揮して次は飯だろうという皆の予想を覆し、いきなりランパブなんかに案内されるんじゃ無かろうかと心配していたが、辿り着いたのはノーパンでも何でもない焼肉屋であった。店内へ迅速に潜入した私達は、早速それぞれの個性光る飲物を注文。外見上全く共通点のない5人組の登場に怪しむ女店員。愛忍者は日本酒。愛天才は小ビール。愛天才よりひとつ年長の私は飲めぬくせに見栄を張って中ビール。モノ愛隊長は未成年だが来年から二十歳なので押さえ気味にウーロンハイ(理屈不明)。最年少愛覇羅はウーロン茶。隊長のメメタァを合図にグラスを掲げた我等の姿はまるで三銃士のようだ。店員の怪しみの視線が20%アップ。

メニューを開き、極普通の肉を注文。しかし愛忍者に「軟骨とはマニアックな」とツッこまれた。馬鹿な、軟骨とはマニアックな食べ物だったのか!?意外なる価値観の違いに多少驚いたが焦ってはいけない。私は得意げに「いやぁ、やっぱりね、こういうのもね、たまにはね」と主旨のハッキリしない返答を返し、はにかんだ。ダメージ15。

総会の開始に伴い私の体内スカウターが激しく動き始めた。総会と名打ってはいるものの、これはバトルである。ヌメレンジャーの上位ランクに位置づけられている我々がいかにして己のヌメリ愛を表現し、相手を魅了できるかというバトルなのだ。勝負を制するのは情報――――。我が激EYEが舐めるように各戦士達の容姿を捕らえる。

まずは愛覇羅。やはり実年齢の若さとヌメレンジャー歴の浅さもあってか、どこか他の隊員達に気圧されているような感がある。だが時折放つ切れ味鋭い波紋カッターが如き攻撃は流石だ。将来のヌメレンジャーを担う若手の代表格としては申し分ない。隊長となるべく肉体を作ってもらうため、私は彼が厠に行っている間にソッと彼の皿に肉を足して置いた。「もう食べれぬ、コト」とか言っていた気がするがまあよい。大きくなれよ。

次に愛忍者。この御方とは一年前に行われた第零回愛総会にて既に拳を交えているが、やはり当時の迫力そのままに圧倒的な存在感でその場の空気を支配していた。私は知っている。愛天才と陰茎を3つに裂く話で盛り上がる彼の笑顔の奧には鬼が住んでいることを。この男には勝てぬと思い知らされてから2年。私は己を磨き、彼を越えようと努力してきた。そして2年費やして私が悟ったのは「やっぱ無理だわーあっはははープスッ」という投げやりな現実で合った。基礎知識が違いすぎますもんだって。彼が居ては関西制覇すら達成できぬので四国辺りに越そうとまで考えたこともある。嘘です御免なさい。


そして愛天才。彼の特徴は高橋由伸である。うんにゃ、特徴じゃなくて似ているのだ。虎党の私にとってはなんとも忌まわしき顔である。だが実際駅で彼を見た瞬間、思ったのは高橋とか腹が立つとかではなかった。美しいのである。けして美少年というわけではない。だが彼には同姓の目から見ても確実に何かを惹き付ける魅力があった。というか高橋由伸もよくよく考えてみればそんな顔である。奴が別に男前ではないのに「甘いマスク」とか例えられているのは、そういう事だったのだ。なんとも興味深いサンプルであったが、それ以上計ると我がスカウターがボンッとなりそうなので緊急停止。流石只者ではない。そういえば彼のサイトの自己紹介には「尊敬する人・・・ホモのオッサンとお茶したことがある人(アナゴ氏)」という欄があった。・・・少し洒落になってない気がした。

最後にモノ愛隊長。私が今回の総会で一番会いたかったのは彼だった。隊長とは電子世界で知り合ってから2年経つ。私がネットを徘徊して最初にお世話になったのが隊長なのだ。「強敵」と言われ最初に思いつくのは紛れもなく隊長である。二人三脚を組む相手を選ぶなら隊長だ。とにかく今回の総会では万感の思いを乗せての出会い・・・になるはずであった。だが私が隊長を見て最初に思ったこと、ソレは「ムカツキ」であった。愛天才の高橋顔を見て思うはずだった「怒り」は、隊長の時に沸き上がってきたのである。誤解されるといけないので先に理由を説明しよう。隊長の容姿が我が友人に非常に似ていたのである。またその男がろくでもない奴なのだ。今しがた「友人」と言ったが知人に変えさせていただこう。とにかく私はその男が大嫌いなのである。もう見るのも嫌だ。話すのも嫌だ。思い出すのも嫌だ。そして困ったことに隊長は顔から髪型からその男にそっくりであり、細かい動作まで似ているのである。髪のかきあげ方とか。こればっかりはどうしようもない。食事の後も隊長がその知人にクリソツな動きをする度に私はピクッとしていたのである。ゴメンネ隊長。貴方は悪くない。

一通りの戦闘力を計り終え、肉食を再開。ふとみると隊長がデジタルヌメリカメラ、略してデジヌメで我等を激写し、魂を抜こうとしている。とっさに中指を立て、激愛守護波にて身を守る一同。店員の怪しみの視線40%アップ。しかし次に肉を運んできたとき、その店員の靴がスニーカーであることに気が付いた。キュッキュッと靴底のゴムが音を立てている。我等の店員に対する怪しみの視線20%アップ。

と、私のヌメリシーバーがけたたましく鳴り響いた。相手は先日私が京都に宿を取らせてもらった友人。彼は「今岡選手がスリーランを打った」という情報を私に伝え、シーバーを切った。つまり彼にとっては今岡選手がスリーランを打った事は、わざわざ埼玉にいる私に電話で知らせてくるほどの重大な事件だったのであろう。今岡って・・・何?

隊長に秘孔新一を突いてデジヌメの使い方を聞き出した私は、早速肉を食す隊員達の顔を激写。使い捨てカメラで鍛えたカメラ捌きが唸る。そうこうしているうちに肉も次第に皿から消えていった。既に愛覇羅はコトっとリタイア。私も先程コンビニに行った際に握り飯を購入して食していたので限界が近い。まあこんなもんだろう、全員3000円ずつってとこか。思ったよりも安く済んで食後のアイスシャーベットを舐めながら至福の時を感じていたその時、愛天才が傾いた。
「特上カルビ逝きましょうか」
やられた、と思った。食事中に聞いた話によると愛天才は先日3時間しか睡眠をとっておらぬという。経験が少ない者には解らぬだろうが、睡眠不足の体で食欲が沸くことはまず無い。腹は減るが、できれば物を食べずに空腹を抑えたいと思うのだ。ギットギトの肉なぞ以ての外である。つまり愛天才はこの時心の底から特上カルビを食べたいとは思っていなかった筈なのだ。それなのに自らの出費を増やし、肉を胃に詰め込んでまで特上カルビを注文した理由は、己の傾き度を上げて我々ために違いない。
そして愛忍者も傾いた。
「2人前ね」
車田漫画が如く宇宙の彼方に吹っ飛ばされる私と愛覇羅。レフリーが愛忍者と愛天才の拳を高々と天に上げる。その横では運ばれてくる霜降りの上肉が隊長はウンともスンとも言わずにただ肉を詰め込んでいた。これを見切って前半は箸の動きを抑えていたのであろうか。遠のく意識の中で私は、明日はフードファイとスペシャルがあるなあと思い出していた。

店を出て次なる行動を考える我々。カラオケに行くか、それとも愛天才の家に行くか、である。とりあえず愛天才の家に荷物を置いてから活動した方が良いと言う結論に至り向かうことになったが、ここで愛天才の口から信じられない現実が知らされた。
「車で30分かかるザンス」
なぬ!?30分!?徒歩でなくて!?そんなことは聞いとらんぞ!最寄りの駅だって聞いていたから歩ける距離だと思ったのに!と勝手に自分が描いていた川口付近の予想とのギャップに困惑する私。しかしどうやら本当に彼の家から最短の駅が、ここ川口駅なのだという。新宿まで車で15分だと聞く川口駅なのに何故?と思ったが仕方がない。新宿に近いと言うだけで交通の便が良いと勘違いしていた私が悪いのだ。とりあえず協議の結果、全員で愛忍者のヌメリカーに搭乗して向かうこととなった。ところで愛天才は、愛忍者が来るまでこなかったらどうやって移動するつもりだったのだろうか・・・。まあ細かいことは良いか。愛故に。

幾多もの戦場をくぐり抜けてきた感のある荒々しいヌメリカーに乗り込み、出発。真っ赤なボディがいかにもヌメレンジャーらしい。そういえば隊長と愛天才はジャンパーの下に真っ赤な衣服を纏っていた。赤は愛の色。今更ながら流石だ、と思った。地下駐車場の入り組んだ地形をものともせずにネオン街へと飛び出したヌメリカーは、流石関西人と思わせるカンと度胸の運転で一路愛天才宅へと向けて疾走。私は前にも愛忍者のヌメリカーには乗せてもらったことがあるが、そういえばあの時もそれはそれは豪快でパワフリャーなドライビングであった。軽いとはいえ飲酒運転。3%くらい死ぬかな、と覚悟を決める。


道中よく覚えていないのだが、私は鼻歌を口にしていたらしい。隣にいた愛覇羅の証言によると、何の前触れもなく歌い出したために大変驚いたと言う。まあ本来なら下戸の私がジョッキ1本飲んだのだ。多少記憶を失っていても仕方がない。ただ何を歌っていたのかが気になる。隙あらばおじゃ魔女どれみの昔のOPを口ずさんでしまう私だけに油断は禁物だ。

5分程走ったところで、予想通り私の体内の肉が逆流する意志をみせ始めた。荒々しい愛忍者の運転にデリケートな私の肉体が拒絶反応を起こし始めたのである。単に酔いやすい体質とも言う。その後は真っ直ぐ前を見つめながら地蔵となりて天竺への到着を待ち続けた。

いよいよ限界が迫り苦渋に満ちた笑顔を浮かべ始めた頃、やっと愛天才宅到着。なんとか助かったと思ったのも束の間、これから我々が訪れるのが造作の巣であることを思うと、安息できる地はまだ遠い。案内された部屋の中は思っていたよりも造作度あふれた素敵な部屋ーっ!で、特に傷だらけで放置されていた絶望感漂う助平ゲー「絶望」の音楽CDがなんともメメタァ。普通の成人男性の部屋も「愛天才が住んでいる」というだけでこうも異空間になるのかと感心。素晴らしい。

まず最初に行う事は決まっていた。あの我等がアイドル力士、陸奥★北海関の激闘シーンを納めたビデオの鑑賞会である。先日苦労の末に録画に成功したその貴重なビデオを皆に見てもらうために私が持参したのだ。彼の闘う姿は生きることに疲れた団塊世代の中年に生への活力を与えると言われる。病に伏す者には病魔と闘う勇気を与え、無垢な子供はアンパンの化物以上に彼を応援しだすとの噂もある。陸奥のほとばしる汗は世界の闇を吹き飛ばす世界樹の雫なのだ。この愛溢れる映像を日本中の人達に見てもらいたい・・・万感の思いを胸にビデオイン。スイッチオン。・・・写らない。ふんが?愛天才が試行錯誤してケーブルをいじり続けるも効果なし。私や愛忍者もいろいろヌイたり結合したり(一部不適切な表現がありました)したがやはり効果無し。どうやらテレビ側の接合部に問題があるらしい。しかし陸奥は映らぬのに、北斗アニメの録画されたテープを入れるとちゃんとデッサンの狂ったカイオウを映し出してくれる。これは一体?

突然愛忍者が顔を青ざめて叫んだ
「安治川の仕業か!!」
そう、不可解な雪、我らを監視するかのような視線を送っていた焼肉屋の娘、映らぬ陸奥ビデオ。すべては安治川部屋の仕業による妨害工作であったのである。我々が今日集まるという情報を得た安治川部屋の面々はここ川口に先回りし、力士30人による雪乞いによって季節外れの雪を降らせ、期待の新人力士安馬の彼女をスパイとして焼肉屋に潜入させ、さらに私が新幹線で爆睡している間に強力な電磁波を使ってビデオを破壊したのである。何故かはわからない。ただ安治川が我々にこれ以上陸奥の姿を晒させまいとしていることは確かだ。一体陸奥にはいかなる謎が隠されているのか。あの脂肪にカモフラージュされた腹にこそ真実はある筈。

皆が見つめるこのノイズまみれの画面の奥では、陸奥がこれでもかといわんばかりに贅肉を揺らしているのであろう。ああ口惜しや。しかしこれを映すには国家機密の暗号通信を盗聴できる程のゴッドハンドが必要であろうと踏んだ我々は、未練を残しつつも陸奥鑑賞を断念。このまま持って帰るのもなんなので、私はそのビデオを愛天才に預けることにした。1人でも多くの者に見て貰えれば幸いであると思ったのだ。しかしよく考えてみれば私が持って帰って動画をアップすれば良かった話であり、単に私がデブを録画したビデオを処分したかったからという魂胆が白昼の下にさらされる結果となってしまった。あはら。とりあえず陸奥ビデオが欲しい人は愛天才まで御連絡下さい。

覆う虚無感を吹き飛ばし、とりあえず任天堂の超家庭機械の北斗の拳6で格闘大会を行うことする。7とどっこいどっこいの評価の北斗6。日本で初めて「〜6」という冠を付けて出されたゲーム、北斗6。何故数多くの猛者達の中から黒夜叉を選んだのか解らない北斗6。だいたいさ、1から7まで辿り着くのに2回もゲームのジャンルを変えたシリーズってあるのか?大抵の場合「〜RPG」とかいう風に名前変わるぜ。FCの北斗3だってアクションだと思った買った奴が大勢居るんじゃ無かろうかと10年以上前のことを心配してみたりした。

ゲームの内容について書くことは何もない。操作を忘れた者同士が格闘ゲームで対戦したって面白いわけがないのだ。・・・いや、訂正しよう。操作を知っていたところで北斗6では盛り上がれぬよ。だって糞だもん・・・。今から思えばPS北斗で対戦すればよかったのではないか?と思うが、おそらくこれが愛天才風の愛総会としての演出方法なのであろう。比較的マシなPS北斗に振り向きもせず、あえてクソの北斗6に興じることこそが造作であると愛天才は読んだのだ。流石である。やはり愛天才にかかれば私が冒頭で述べていた悩みなど杞憂に過ぎなかったのだ。ありがとう愛天才。単にコントローラーが2つなかったからなんじゃないかというぶしつけな予想は私の心の中にしまっておくよ。

その後皆はSFCの花慶をプレイしていたが、原哲夫'sチョンマゲ漫画をほとんど読んだことのない私は参加することができず、傍観。格闘とシミュレーションの混合したようなゲームだという印象を受けたが、「原作通りに動けば傾き度が下がる」という愛忍者の説明によってすぐにクソゲであると理解できた。

酔いが冷めて急に寒くなってきた私は、暖房をつけるよう命令。しかしストーブから一番遠い場所に位置していた私に熱光線は届かず、おまけに愛覇羅と隊長がふすまを閉めてくれないのでなかなか部屋に熱気が籠もらない。これは先輩ヌメレンジャーへの嫌がらせであろうかとも思ったが、単に私の防寒度が低いだけであった。花粉症に風邪が加わったらどうなるんだろう、と思いくしゃみを飛ばした埼玉の夜。

SFCを撤去させて愛天才が出してきたのは、PS北斗であった。「長槍騎兵が倒せないから手を貸してほしい」との事。長槍騎兵の出てくる七章といえばPS北斗最大の難関である。もしクリアに失敗すれば、力になれないどころか総会の貴重な時間を無駄に費やしかねない。一体誰がやる・・・?自ら名乗り出るものはいない。おそらく皆ここ数ヶ月PS北斗から遠ざかっていたために自信が無いのであろう。放り出されたコントローラーに皆が視線を集めて凝固する中、意を決して手を伸ばしたのは何故か私であった。

私だって3ヶ月以上PS北斗から遠ざかっている。クリアできるかどうかは五分・・・。キーとなるのはヒルカの存在だろう。ガードする雑魚・長槍騎兵に囲まれているおかげで奴の蛇交帯はこのゲームの中で1,2を争うウザ技となっている。奴を倒せば後は弱い弱い拳王様だけだ。事実上7章のボスはヒルカ。ヒルカ>拳王様。ヒルカ最高。・・・バンダイ許すまじ。

予想通り長槍騎兵に手こずったが、なんとかクリアー。我が操るケンシロウはどうしても北斗神拳の動きをしてくれない。これが愛羅武道なのだろうか。残る8章は自分でやりやがれファーックと告げてPSの電源を切ると時刻は9時。
「そろそろか・・・」
逝き先を口にせずとも皆次なる行動は理解していた。聖ヌメリを称える愛の賛美歌「ヌメソン」を、狭い暗室の中で各々が唄うという伝統の儀式、アハラオケ。そう、現世にあふれる数多くの歌をヌメリ様色に染めることによって、ユーミンもびっくりのラヴソングへと還元させたヌメリソングの数々を熱唱しに行くのだ。安治川によって凍らされたと思わしき車のフロントガラス曇りを拭きとり、いざ出発。

道中、突如愛天才が満面の笑みを浮かべたかと思うと、道路脇に輝く店の看板を指差し「帰りにここに寄るべし」と言い出した。それにつられるかのように不敵な笑みを浮かべる隊員達。何だどうした?意味も分からず指し示された指の延長線上を見つめると「寿司」とかかれた看板が。何が可笑しいのか数秒間理解できなかったが、隊員達の視線が私に向いているのに気がつき、全てを理解した。そう、私は寿司を食べることが出来ない体だったのである。総会前、初代ヌメレンジャー総長・愛羅将閣下はこう述べられた。
「愛参謀、寿司を食せよ。」
この言葉の裏に隠された真意が、愛羅将閣下の愛なのか、それとも単なる嫌がらせなのかはわからない。しかし私を除く今回の参加者達は皆一同にこの命令を遂行せんとしようとしている事は確かであった。「無理矢理にでも愛参謀に寿司を食わせてやるぜイヒヒ」というヌメレンジャーにあるまじき邪悪な気が車内に渦巻いていたのである。祈る私。悪霊退散寿司退散刺身退散山葵退散。

アハラオケ会場に選ばれた光栄なカラオケ屋は、流石都会の町はずれと思わせる程の広さ。愚かにも10分間以上も我々を待たせた後に店員が案内したのは、ダラダラするのに丁度良い・・・もとい、聖なる儀式を行うにふさわしい座敷の部屋であった。案内した店員はあまりにも怪しい七三分けの漢だったので奴もおそらく安治川の刺客だろうと思われる。それぞれの飲物とチキンナゲットを注文。どれもこれも全てはヌメリ様の称えるためのお供えであり、決して我々の胃を満たすためのものではない。胃に入れること入れるが断じて違う。

部屋ーっの中に入った途端、そそくさと鞄の中から何かを取り出す愛忍者。登場したのはノーパソであった。なんと愛忍者は全てのヌメソンをDLして、歌詞を見ながらアハラオケできるよう準備していたのである。まさに発想の転換。カラオケとはテレビ画面を見ながら唄うもの、という常識を覆す愛忍者の大技炸裂であった。私は密かにこの日のためにオニューのヌメソンを一曲完全に覚えてきたのだが、無駄な時間を使ったなあと暫し呆けてみたりする。

まずは開幕の歌。北斗馬鹿共が集うカラオケで開幕に歌う曲と言えばアレであろう。というか曲目ラインナップの中に北斗ソングは愛取りとユリ永しか無かったので、自然と愛取りになった。その後は各自ヌメソンを唄ったり、愛忍者のディープな世界に聞き入ったり、伝説とまで謳われた至宝のヌメソン「愛 戦士」を生で聞いて感動したり、時折自分が全く記憶にないヌメソンを幾つも作っているという現実にショックを受けたりしながら儀式は進行。小腹が減ってきた私は先ほど来たナゲットを食そうと手を伸ばしたが、まさぐったバスケットの中には肉は残ってはいなかった。既に鶏肉は疾風の如き早さで若き修羅共にたいらげられていたのだ。空しく指についたケチャップを嘗める私を見て嘲笑を浮かべる愛天才。おのれイイジマめ。何もかも己の思い通りになると思うな。寿司は食わんからな。

この時のために用意した「Body And Soul」のヌメソンを歌うものの、キーの高さを計算に入れておらず、失敗。もはや私に残された最後の手段は、あのヌメリマスクだけであった。しかし突如かぶっても注目を得ることができぬ。ここはまず皆の視線を私に集めるのが先決であろう。そこで私は言ってやった。
「そろそろリーサルウェポンを出すかな・・・」
後ろを向き、鞄を漁る私の背に皆の視線が集まる。これはギャンブルである。これだけ期待させておいてハズしたときのダメージは計り知れない。いつの間にかかぶっておくという方法なら簡単に皆を笑わせることが出来たであろう。しかし友人同士の会話の中で突然面白いことを言えば必ず笑われるのと同じように、それでは意味がない。客の「今から俺達は笑わせられるぞ」という期待感の中で、その期待に応えて笑わせることこそが大事なのである。梅田花月の舞台の上で入場者全員にリハーサル無しの爆笑のハーモニーを唄わせる事が全関西人の遙かなる夢なのである。嘘である。

スッポリとゴムのマスクに覆われた顔を、クルリと反転させ、御披露目。切り抜かれた目の穴を通して見た皆の反応は・・・良!!皆一様に私を、いやヌメリマスクを見て笑っている。やった!我が愛総会に一片の悔い無し!!髭を描いてよかった!本当によかった!

しかし所詮は一発ネタ。30秒ほどいじられてヌメリマスクの出番は終了した。結局マスクを出すのも脱ぐのもタイミングを誤った私は、その後しばらくヌメリマスクをかぶり続けておかなければならない状況に暗転。10分後、アダルトビデオをレジに持っていく少年が如く、ひっそり気配を消しながらマスクを脱いだのだった。歯を描くために使った修正液の固まりがボロボロこぼれ落ちている様が妙に染みしかった。

各々が歌った曲の数は、だいたい私と愛天才が6,7曲(私はヌメソンばっか)愛忍者が10曲以上、隊長、愛覇羅が1曲ずつくらいであった。曲数も選曲もズバ抜けていた愛忍者だったが、歌唱力もやはりズバ抜けており、結局我々はなんだか愛忍者ディナーショーを2時間堪能したような気分のまま、ラストのユリ永を皆で唄って終了。安治川が再度仕掛けた曇りガラストラップを攻略し、再び愛天才宅へ。道中愛天才が寿司屋に寄ることを完全に忘れていたため、助かった。

帰ってきてテレビをつけると、スポーツニュースは弱小球団が金満球団に勝利したという事件を告げていた。もしかして行くときに降っていた雪はこれのせいじゃないのかと邪推。チャンネルを回すとナイナイサイズを放送中。愛忍者が言う。「お、もうすぐガキか」違う、違うぞ愛忍者。ガキを土曜の深夜にやっているのは関西だけだ。しかしこんな「友人宅気分」の中にいて、ここが埼玉県だと思えという方が無理だ。なんとかして遠方に来た気分を味わいたいと思うも、自然に手は本棚の地獄甲子園に伸び、自然に指がページをめくり、自然に脳が画太郎ワールドを堪能し始めてしまう。

おもむろにパソコンを立ち上げ、我々のサイトを巡回しだす愛天才。互いの治める地が今後どういう風に進展していくのかだとかいう込み入った話なんかもしたかったのだが、私はサイトの更新ネタを言うだけ言って全然実行に行わないという癖があるので、止めた。その後は愛天才センス爆発なメール受信音を聞かされたり、愛天才セレクションのマッド北斗BMを見せられたり、愛天才作の造作なスパマリを見せられたりしつつ呆けていると、時間はもう丑三つ時前。そろそろ短くも濃かった総会が終わりを告げようとしている。隊長も愛覇羅も愛忍者も、愛天才の家に泊まるらしい。残る問題は一つ。ここからどうやって私はホテルまで帰ればいいのか、ということである。チェックインしてしまっている故に私は愛天才の家へ泊まることが出来なくなっていたのだ。

電話をしても多分無駄だろう。荷物が部屋に残っているからである。おそらくチェックアウトの時間を過ぎてもまだ荷物が残ったままであれば、自動的に延長、つまり翌日の宿泊代も払わねばならなくなってしまう。冗談じゃねえ!!問題を解決するには、私が今からホテルに戻るか、もしくは早く起きてチェックアウトの時間までにホテルに戻るか、である。しかし後者の場合は低血圧の私には厳しいスケジュール。おそらく目覚ましで起きたとしても、「6千円を諦めるだけであと1時間寝れるんだなラッキー」などという度阿呆な考えの下に再び夢を見るだろう。というか私に合わせて皆まで早起きさせてしまっては申し訳がない。ということは、今出てホテルに帰還するしか私の6000円を守る方法はないのだ。

タクシーを止めて帰ろうとするも、この辺りにゃそんなもん走ってないよ、と愛天才。タクシーを呼びたいというと、電話帳を探した後に、御免どっかいってしもた、と愛天才。万事休す。こうなったら面倒臭いだろうなあというのを承知で愛忍者にタクシーが走っている通りまで送ってもらうしかない。しかし、大体の了見を既に把握していた愛忍者は文句一つ言わずに出かける準備を始めてくれた。なんていい人だ。いい人だ―――――――――と思っていたら、何故か背後で同じように外出の準備を始める若き3人。何故?駅まで行って戻ってくるだけなのに・・・。しかし3人は誰一人として愛天才宅に止まろうとはせず、結局みんなして車に乗り込み、駅へと向かうことになった。もしかしたらまだ皆は私の寿司食を諦めておらず、このまま深夜営業の回転寿司屋にでも連行されるのでは・・・皆は私の苦痛に歪む顔を見るためについてきたのでは、と電波少年の新たな主役並の不安を覚えたが、車はスイスイと川口駅へと向かい、やがて到着した。

車を降り、皆に挨拶。最後に何か言おうと思ったが造作っぽいフレーズが浮かばず、普通に楽しかったという己の本心を伝えた。これでいい。去りゆく車に背を向けチャップリンダンス。後部座席に座っていた隊長と愛覇羅はちゃんと見ていてくれただろうか。

地理的によくわからぬ場所で下ろされた故に方角がよくわからず、数十分うろうろしたのちにやっとホテルへ到着。奥に引っ込んだままなかなか出てこないホテルボーイを半分怒鳴るような形で呼びつけ、鍵を受け取って自室へ。テレビが点いたままだった。パブロフの犬が如くに放置されていた浴衣を意志とは関係なく纏いベッドイン。ライトオフ。薄れゆく意識の中で私は、愛天才の家に傘を忘れてきてしまったことを思い出した。

最後に、隊長、愛忍者、愛天才、愛覇羅、お疲れさまでした。

この続きの「第二話 愛参謀、電車間違え千葉県へ!お台場は萌えているか」と「第三話 愛参謀'sフードファイトin横浜ラーメン博物館」は気が向いたら執筆します。


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